スコット・トゥロー 『推定無罪』上・下巻

スコット・トゥロー推定無罪』上・下巻


推定無罪 (上) (文春文庫)  推定無罪 (下) (文春文庫)



主人公サビッチ主席検事補のかつての愛人である
美人検事補が自宅で殺害され、その容疑が次第に
サビッチに向けられていく。
サビッチ視点での内容も、すべてを読者に明かしてる
とは言えない箇所が気になり、フーダニット的にも楽しめる作品でした。
精神科医との会話が所々挟まれてるのも
こちらの疑心暗鬼的なムードの盛り上げに一役買ってます。



そして実際に起訴されて法廷シーンが始まるのが
下巻からなんですが、これが滅法面白い!
この面白さのために上巻があるし
上巻は伏線の数々だった、ということが後から実感できます。
様々な欲がからんだ人間の嫌な面がストレートに描かれてるので
ちょっと私は好きでないタイプの作品。
でもエンタメ的には一級品!映画化されるのも頷けます。

ドロシー・L・セイヤーズ『ナイン・テイラーズ』

ドロシー・L・セイヤーズ『ナイン・テイラーズ』


ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)


ピーター卿シリーズ第9弾。長編。
鐘がこの作品の核なのに、鳴鐘術がよくわからない。
薀蓄が次々と続き、頭が混乱するんだけど
よくわからないなりに楽しめてしまう本作品。
個々の鐘に名前をつけ鐘の代名詞としてsheを使う英国の文化。
喜びも悲しみも鐘を鳴らしてそれを分かち合っており
素朴な田舎の生活が教会を中心に回っていることを
改めて感じました。
視覚も聴覚も、とにかく想像力をかき立てられる作品でした。


事件真相については、ピーター卿ですら振り回されて
悪戦苦闘しますが、最後の最後であまりの驚き!
直前の予測すら私には不可能で、全くの予想外。
いやー、凄いトリックでした。
ただその意外性より、登場人物の描写が細かくて面白い!
そして村人の方言が何とも味があっていいのです。
もちろん本格ミステリなんだけど
小説としての面白さも一級品でした。

ヘニング・マンケル『白い雌ライオン』

ヘニング・マンケル『白い雌ライオン』


白い雌ライオン (創元推理文庫)


ヴァランダー警部シリーズ第3弾。
毎回メインとなってるテーマが重く
今回は南アフリカアパルトヘイト政策を扱ってます。
作者が本当に読ませたいのは、このテーマの方なんじゃない?
これは警察小説の殻を被った、骨太な社会派小説ですね。



作品のスケールの大きさに圧倒されつつ
登場人物が少ないので読みやすかったです。
南アフリカの国情を触りでも知れたのは良かったのですが
ヴァランダーの迷走ぶりがますますひどいことに!
スウェーデンの田舎警察は実際のところどうなん?
苛立ちながらも、先を知りたくて読んじゃうあたり
作者の筆力の素晴らしさかしらん。

今回はヴァランダーの部下スヴェードベリが
いい刑事であることに気付きました。
今後は彼にも注目していこう。

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』

三上延ビブリア古書堂の事件手帖』1・2・3巻


ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫) ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫) ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)



舞台は北鎌倉にある古書店
日常の謎を扱った連作短編集。
非常に読みやすくてさくさく読めちゃいます。
読んでてぐっと深入りしてしまったのが
各短編に登場する古書の内容。
栞子が大輔に本の触りを説明する件が特に面白く
古書業界では有名であろう薀蓄の数々も
ど素人の私はどれも興味深い内容でした。
栞子さんに直接色んなお話聞きたいくらい。
大輔なんて本も読まないくせに・・
なんて思っちゃいました(笑)。


話の流れからまだまだ続きそうですね。
せどりに関してはもっと暗いイメージを持ってました。
過去に読んだある作品の影響だな。
面白そうな題材も豊富そうだし、これからも楽しみなシリーズです。

S・J・ローザン『どこよりも冷たいところ』

S・J・ローザン『どこよりも冷たいところ』

どこよりも冷たいところ (創元推理文庫)


リディア・チン&ビル・スミスシリーズ第4弾。
語り手がリディアとビルで交互に変わっていくシリーズ。
今回はビル視点。


今回の舞台は高層ビルの建築現場。
きな臭い不正を調査するために
知り合いの探偵会社に協力する下請け業務。
二人で建築現場に潜入捜査するんだけど
面白いのがリディアの秘書役。
スーツ着て事務仕事してるリディアを
想像するだけでもニヤリ。
ストレスたまるだろうなぁ(笑)


誰が犯人か、というより
入り組んだ事件の背後が面白い。
飽きさせずに興味を最後まで引っ張ったローザンは凄い。
一気読み。この巻、面白い!


ビルの優しさがかえって裏目に出るのは本当に気の毒。
ビルにとって、ピアノを弾くことの意味が丹念に描かれていて
彼にとってはその時間が本当に必要なんだと
前作以上に感じられました。
知らない曲だけに、聴いてみたくなる

宮部みゆき『ソロモンの偽証』

宮部みゆき『ソロモンの偽証』

ソロモンの偽証 第I部 事件 ソロモンの偽証 第II部 決意 ソロモンの偽証 第III部 法廷


第1部「事件」
第2部「決意」
第3部「法廷」

全3巻、2000ページを超える大作は
人物描写を丁寧に書き込んだ宮部作品だからこその量。
もっと読みたい人物や背景が次から次へと浮かんでくる。
ここが宮部さんの巧いところなんだな。


ただし気になったのが帯の文句。
あまり余計なこと書かないで欲しいな。
ラストは誰もが想定する範囲内なんで
あまり意外性を煽る宣伝文句はやめて欲しい。
そこに至るまでの経路に興味あるんだから。


翻訳小説で、裁判の公判部分が
延々と登場する作品を読むことはたまにあるけれど
国内作品で、ここまで裁判を主にした作品は
初めてだったので、とても新鮮な印象。
しかも裁判を行うのが中学生なので
やたらとわかりやすい。


誰もが納得できる終わり方で
読後感は一見いいような感じもする。
ただ、ある一人の少女とその家族のことを考えると
いつまでも胸に突き刺さった悲しみは残る。

ヘニング・マンケル『リガの犬たち』

ヘニング・マンケル『リガの犬たち』

リガの犬たち (創元推理文庫)


ヴァランダーシリーズ第2弾。
気の毒なくらいにうだうだと悩むヴァランダー。
悩むと死んだはずのリードベリの名前が登場し、
その思い出し方がまた情けないんです。
けど、ダメっぽいヴァランダーは前巻で承知してるので
もう温かく彼の成長を見守る気持ちです。
成長と言っても、ヴァランダーは結構年いってますけどね。


途中から舞台がラトビアに。
ラトビアという国は正直全然知らなくて
作者がどうしても描きたかった内紛を描いたみたいで
面白くて夢中で読みました。
日本は平和な国だよ・・と思えてしまう現実。
そんな重い雰囲気漂う緊迫した場面で
ヴァランダーがある行為をするんですが、
それが何かの伏線になってるのかすごく気になりました。
過去に読んだミステリでこんな緊急の時に
こんなことする主人公初めて!笑える〜。


相変わらず惚れっぽいのは変わらないんでしょうかね。
次はどんな内容か。ちょっと病みつきになりそうな雰囲気。